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言葉と探究―pitchトークで自己の変容を捉える

6月27日
読了時間: 7分

更新日:9月14日

スクリーンを背にpitchトークを行う女性講師と聴講する学生たち


導入の成果と変化


前年度、私がおっかなびっくり始めたpitchトークは、1年間の実践を経て、生徒たちの共通言語となりました。さらに、他学年でも実践されるようになり、英語科への展開も検討されています。

「言葉にする」「互いに聴く」「対話によって考えを深める」という営みが、一つの授業や一人の教員を越え、校内に広がり始めています。



導入した組織のプロフィール

言葉で自分を深掘りし、探究する―都立桜修館中等教育学校「pitchトーク×探究」2年目の実践

学校:東京都立桜修館中等教育学校 探究国際部

対象・規模:4年生(高校1年相当)160名

実施日:2026年6月27日



ご担当者様から感想をお寄せいただきました


導入前の課題


本校では、生徒一人ひとりが自ら問いを立て、考え、他者との対話を通して学びを深める探究活動を進めています。

一方で、探究学習が情報収集や成果物の作成に偏ると、「自分はなぜこのテーマにひかれたのか」「探究を通して、自分の見方や考え方はどう変わったのか」といった、生徒自身の内面の動きが捉えにくくなることがあります。

探究とは、何かを調べて発表することだけではありません。自分の経験や感情を言葉にし、そこから問いを見いだし、他者との対話によって考えを更新していく営みでもあります。

そこで本校では、探究と、その土台となる「言葉」の関係を生徒たちが捉え直す機会として、2025年度に続き、2年目となる特別講演を企画しました。



選定の決め手とプログラム内容


上田祥子先生は、国語教育、キャリア教育、探究学習に携わりながら、生徒が自分自身の経験や思いを言葉にし、他者との対話を通して考えを深める「pitchトーク」を開発・実践してきました。

前年度の講演をきっかけに、私自身も授業でpitchトークを実践してきました。はじめは手探りで始めた取り組みでしたが、1年間の実践を通して、生徒たちの間で「pitchトーク」という言葉が共通言語になるまでに定着しました。さらに、他学年の授業へと広がり、英語科での実施も検討されるなど、教科や学年を越えた展開が生まれています。

私自身、上田先生の発信や言葉に触れ、さまざまな場で対話を重ね、自らpitchトークを実践するなかで、その原点には「言葉と探究」の深い結びつきがあることを感じるようになりました。


講演は、「小さい頃に好きだったことは?」というチェックインから始まりました。

幼い頃に夢中になったことや、周囲の評価とは関係なく好きだったものを語り合うことで、生徒たちは自分の中にすでにある関心や価値観に目を向けました。

その後、AI時代に求められる言葉の力について考えながら、次のようなテーマを扱いました。


* 言葉を使って自分自身を深掘りすること

* 自分の経験や感情から問いを見いだすこと

* 「具体」と「抽象」を往還しながら、考えの解像度を高めること

* 自分の中にあるリミッターに気づき、それを外していくこと

* 自分の変化を言葉にすることが、次の探究につながること


上田先生自身の「アタック25」にまつわるエピソードも交えながら、「できないと思い込んでいること」や「無意識に自分へかけている制限」を見つめ直しました。生徒たちは笑いながら話を聞きつつ、自分自身の可能性について考えていきました。

講演の最後には、その時間に生まれた気づきや自己の変容をテーマに、ミニpitchトークを実施しました。その場で言葉にし、互いに聴き合うことで、講演を「聞いて終わる」のではなく、自分自身の探究へと接続しました。



プログラム設計で工夫したこと


今回の講演では、探究を「立派な研究テーマを見つけること」や「優れた成果物をつくること」として扱うのではなく、自分自身の経験や感情を言葉にするところから始まる営みとして位置づけました。

また、完成された考えを発表するのではなく、その場で生まれた気づきや、まだ整理しきれていない変化を言葉にする時間を設けました。

pitchトークは、話す力を競うための活動ではありません。互いの言葉を聴き、受け止め、問いを返すことで、一人では気づけなかった自分の考えに出会うための対話の仕組みです。

生徒が正解を探すのではなく、自分を主語にして語れること。そして、自分の言葉が他者に届き、次の問いや行動につながることを実感できる場づくりを重視しました。


上田先生には、pitchトークの手法を教えるだけでなく、生徒の中にすでにある経験や「好き」、違和感、可能性を引き出し、それらを探究の起点となる言葉へ変えていく伴走者として、講演と対話の場を設計していただきました。

また、身近な経験やユーモアを交えながら、生徒が自分自身にかけているリミッターを緩め、安心して言葉を発することのできる空気をつくってくださいました。

「モブキャラではいられない。人生の主役からは逃げられない」

このメッセージを通して、探究を学校の中だけの活動としてではなく、自分の人生を自分の言葉で引き受けていく営みとして、生徒たちに届けていただきました。



導入後の効果と変化


「言葉にする」「互いに聴く」「対話によって考えを深める」という営みが、一つの授業や一人の教員を越え、校内に広がり始めています。

今回の実践について、数値によるアンケート調査は実施していません。しかし、講演中には、生徒たちが笑い、頷き、互いの言葉に耳を傾けながら、生き生きと参加する姿が見られました。

講演後の学級日誌には、感想が多く記載されており、講演のメッセージが生徒の日常の言葉に残ったことがうかがえます。

今回、あらためて大きな成果として感じたのは、pitchトークが単発の講演に終わらず、学校の日常へ浸透し始めていることです。

前年度、私がおっかなびっくり始めたpitchトークは、1年間の実践を経て、生徒たちの共通言語となりました。さらに、他学年でも実践されるようになり、英語科への展開も検討されています。



講演中、特に印象的だったのは、生徒たちの表情が生き生きとしていたことです。


私自身、1年間pitchトークを実践してきたことで、今回の講演を通して、その背景にある「言葉と探究」の結びつきを、これまで以上に鮮明に捉えることができました。

「生徒にはリミッターを外して、のびのびと取り組んでほしい」という教員としての願いと、探究における言葉の役割が、自分の中で結びつきました。点と点が線になっただけでなく、これまでの実践が新たな形へ発展していくような手応えを感じる、鮮烈な1時間でした。

前年度には存在していなかった「探究国際部」が生まれ、pitchトークが学年や教科を越えて広がっています。1年前には想像もしていなかった現実を前に、これもまた、自分の「言葉」がつくった「現実」なのだと感じています。

震災後、「国語には何ができるのか」を考え続けるなかで、私は「言葉の力を信じる」という思いにたどり着きました。そこに今、「AI」と「探究」という新たな要素が加わり、「言葉の力で現実をより良いものにしていくことができる」という思いが、さらに確かなものになりつつあります。

過去の歴史にも学びながら、今ある現実を少しでも良いものにし、前へ進めていく。そのために、国語科の教員として言葉の力を信じ、生徒を信じて取り組んでいきたいと、あらためて感じました。



今後の展望


今後は、pitchトークを探究活動の発表場面だけでなく、テーマ設定、問いの更新、中間振り返り、自己の変容の言語化など、探究のプロセス全体に組み込んでいきたいと考えています。

また、国語科にとどまらず、英語科をはじめとする各教科や学年へ展開することで、「自分の考えを言葉にする」「他者の言葉を受け止める」「対話によって問いを深める」という文化を、学校全体に育てていきたいと思います。


探究の成果は、完成した発表やレポートだけに表れるものではありません。生徒が何に心を動かされ、どのように見方を変え、自分の人生や社会とどう結びつけたのか。その変容を言葉にできることも、探究における重要な成果です。

2年目を迎えた本校の実践を、pitchトークが一度限りのプログラムではなく、教員の実践と生徒の言葉を通して学校文化へと根づき、教科や学年を越えて発展していくものにしていきたいと考えています。





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